
増えていく“好き”のかたち
またマスキングテープを買ってしまった。
気づけば、引き出しの中には色とりどりの柄が並び、もう収納場所が限界に近い。
「これ以上はやめておこう」と思いながら、つい手を伸ばしてしまう。
ネットで見つけた新しいデザインを前にすると、理性よりも先に心が動くのだ。
誰かにとってはただの紙テープかもしれない。
けれど、私にとっては「小さな癒やし」そのもの。
マステを眺める時間は、日々の慌ただしさからほんの少し逃げ出すような、
静かな隠れ家のような場所になっている。
選ぶことは、自分を確かめること
今日はどの柄を使おうか。
その日の気分や天気、心の状態によって、選ぶデザインは微妙に変わる。
くすんだブルーを選ぶ日は、頭の中を整理したいとき。
淡いピンクを手に取る日は、少し優しくなりたいとき。
手帳やノートの片隅に貼るたび、自分の心の温度が可視化されていく気がする。
“選ぶ”という行為は、単なる作業ではなく、自分との対話なのかもしれない。
無意識に選んだその柄が、今の私を語ってくれている。
「集める」から「使う」へ
気づけば、箱いっぱいに集まったマスキングテープ。
集めて満足していた時期もあったけれど、
最近は“使う”ことの方に楽しみを感じている。
お気に入りを惜しまず使うことで、
「もったいない」という気持ちが少しずつほどけていく。
誰かへの手紙、子どものプリント、
仕事のメモにも小さく彩りを添える。
そうやって使っていくうちに、暮らしそのものが少し柔らかくなる気がする。
マステを貼るときの「ピッ」という音や、
指先に伝わる紙の質感。
それらが日常の小さな儀式になっていく。
記念日の前夜に思うこと
明日は、私たち夫婦の記念日。
夫は覚えているだろうか。
毎年、忘れたり思い出したり、そんな繰り返し。
けれどそれも、私たちらしいと思う。
結婚当初のような特別なサプライズはもうないけれど、
朝、コーヒーを淹れてくれること。
夜、テレビを見ながら他愛ない話をすること。
そんな日々の積み重ねが、何よりも大切だと今は思える。
記念日にケーキを買うかどうかは、きっとその日の気分次第。
何かを「しなければ」と思うより、
穏やかに流れていく日々の中で、
静かに感謝できたらそれで十分。
日常を彩るということ
マスキングテープを貼るたび、私は思う。
「飾る」ことは、特別なことじゃない。
ほんの少しの手間で、日常は確かに変わる。
忙しさに飲み込まれて、自分の感情を後回しにしがちな日々の中で、
たとえ一枚のマステでも、自分の手で選び、使うという行為が、
心を取り戻す小さなきっかけになる。
好きなものを持つこと、
そしてそれを惜しみなく使うこと。
その繰り返しが、
「今」を大切にする力になるのだと思う。
“好き”を残していく暮らしへ
この年齢になってようやく気づいたのは、
モノを減らすことだけが“整える”ではないということ。
心が動くものを選び、そっと手元に置いておく。
それは、未来の自分へのささやかな贈り物だ。
マスキングテープは、ただの紙の帯ではなく、
私が「好きだった気持ち」の記録。
その柄の一つひとつに、そのときの私がいる。
明日また、新しい柄を使おう。
それは新しい日を迎える、
小さな決意のようなものだから。
今日も小さな養生を。
Wrote this article この記事を書いた人
ミカ
手帳と暮らすミカです。 薬剤師・和漢薬膳師として、心と体の「めぐり」を見つめながら暮らしています。 40代を迎え、心や体の声に耳を澄ます日々。 手帳を開く時間は、私にとって小さな養生であり、静かな儀式です。 ここでは、ほぼ日手帳に綴る日々の出来事や心の揺れを通して、 「人間らしく生きる」ためのヒントを探しています。