暑さもごちそう|台湾祭りで感じた“旅のような非日常”

暑さもごちそう|台湾祭りで感じた“旅のような非日常”

屋台のざわめきに吸い寄せられて

「台湾祭り」というイベントに出かけた。
会場に近づくにつれ、スパイスと油の混ざった香りが風にのって漂ってくる。
ざわざわ、ジュワッ、パチパチ──。
鉄板から跳ねる音が、まるで呼び声のようだった。

赤い提灯がゆらめき、異国の音楽が響く。
湿気を含んだ空気の中、少し汗ばみながらも、
足を止めるたびに目に入る看板がキラキラして、
その雑多な雰囲気がたまらなく楽しい。

このところ仕事が忙しくて、
心のどこかがカサついていた。
そんな状態で迎えた休日に、
この“非日常のざわめき”が体の奥にしみ込んでいく。
整った静けさより、混ざり合う喧騒の方が、
ずっと自分を取り戻せる気がした。

食欲の国境はいつだって曖昧

屋台を一周してみると、
香ばしい匂いの行列、唐辛子の赤、湯気の立ちのぼる鉄板。
色も音も匂いも、すべてが賑やかに共鳴している。

「台湾料理って、どんな味なんだろう?」
そんなワクワクで選んだのは、鶏肉の蒸し料理。
口に入れた瞬間、ほろりとほどける柔らかさ。
八角の香りがふわりと立ち、異国の記憶を刺激する。
その奥に、どこか懐かしい家庭の味があった。

食べるたびに、“知らないのに懐かしい”感覚がこみ上げる。
文化は違っても、人が「おいしい」と感じる瞬間の温度は、
どこもきっと同じなんだろう。

台湾ビールの“軽やかさ”が、夏の味になる

一通り食べ歩いたあと、冷たいビールを探して屋台を回った。
見つけたのは台湾ビール。
瓶の表面にうっすら水滴がついていて、
指先がひんやりする。

ゴクリと一口。
日本のビールよりも苦味が少なく、
軽やかで、トロピカルフルーツのような香りがふっと抜ける。
体の熱がスーッと引いていくのがわかる。
「はぁ…おいしい」
その言葉が思わずこぼれた。

まわりでは子どもが不思議そうに屋台を見つめ、
隣のテーブルでは知らない人たちが笑い合っている。
夜に近づくにつれ、空の色が少しずつオレンジから群青に変わり、
ランタンの灯りが一段と映えていった。
時間がゆっくり流れていく。

ごちゃごちゃした幸せ

イベントの空気には独特の“生きた音”がある。
人の笑い声、音楽、金属の打ち合う音、そして香辛料の香り。
それらが混ざり合って、
胸の奥をトントンと叩くようにリズムを刻む。

整ったカフェよりも、
少しごちゃついた屋台のほうが落ち着くのはなぜだろう。
人の体温を感じる空間は、どこか懐かしくて安心する。
ここでは、誰もが思い思いに笑い、食べ、語っている。
そんな「自由さ」が、疲れた心をほどいてくれる。

ストレスを溶かす“非日常”の魔法

ここ最近、仕事のメールとタスクに追われて、
一日が淡々と過ぎていく感覚があった。
気づけば深呼吸することも忘れていた。

でも、屋台の喧騒の中に立つと、
頭で考えていたことがどうでもよくなる。
目の前にあるのは、音と匂いと人の声。
五感が忙しく動くたびに、心が勝手に軽くなっていく。

リフレッシュって、何か特別なことをするんじゃなくて、
自分の感覚を取り戻すことなのかもしれない。
非日常の風景が、凝り固まった心をほぐしていく。

異国を感じるのは、場所ではなく“空気”

台湾祭りをあとにして、夜風に吹かれながら歩いた。
街の音が少し遠くに感じる。
でも、まだ耳の奥では、屋台の音楽が鳴っていた。

たった数時間の出来事なのに、
まるで旅をしてきたような充足感。
遠くへ行かなくても、
見慣れた街の中にだって“旅の欠片”は転がっている。
気づくかどうかは、自分の心の余裕次第。

暑さの中で、心も解ける

汗をぬぐいながら飲んだビールの味、
唐揚げのサクッという音、
紙皿を持つ指先の熱。
そのすべてが「夏の今」を生きている証みたいだった。

暑さも人の多さも、
“ああ、夏だなあ”と笑いながら受け入れる。
それだけで、少しだけ世界が優しくなる。

台湾祭りで感じたあの熱気と自由さ。
それは、ストレスに覆われた日常を
ほんの少し揺さぶってくれた、確かな“ごちそう”だった。

今日も小さな養生を。

Wrote this article この記事を書いた人

ミカ

手帳と暮らすミカです。 薬剤師・和漢薬膳師として、心と体の「めぐり」を見つめながら暮らしています。 40代を迎え、心や体の声に耳を澄ます日々。 手帳を開く時間は、私にとって小さな養生であり、静かな儀式です。 ここでは、ほぼ日手帳に綴る日々の出来事や心の揺れを通して、 「人間らしく生きる」ためのヒントを探しています。

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